夢健究会

起立性調節障害は、思春期前後の小児に多くみられ、起立時にめまい、動悸、失神などが起きる自律神経の機能失調です。
人の身体は、起立すると重力によって血液が下半身に貯留し、静脈を経て心臓へ戻る血液量が減少し血圧が低下するので、これを防ぐために自律神経系の一つである交感神経が興奮して下半身の血管を収縮させ、心臓へ戻る血液量を増やし、血圧を維持します。しかし、自律神経の機能が低下した結果、このメカニズムが働かず、血圧が低下し脳血流が減少するため多彩な症状が現れます。
この病気を知る為には自律神経を知る事が大切です。縁の下の力持ちで頑張ってくれている心臓や血管は、自律神経によって調整されています。
自律神経は、歩いたり、手を動かしたりする運動神経と異なり、自分の意志では調整できない神経です。
外界の刺激に対して反応して、自動的に反応して、体を快適な状態に調節してくれる神経です。
自律神経は心臓や血管だけでなく、腸や肺などの内臓や感覚器など全身の臓器に張り巡らされています。
それでは自律神経とはどういったものでしょうか?
ざっくり言うと、自律神経は交感神経と副交感神経に分けられます。
そして、交感神経と副交感神経のパワーバランスでそれぞれの臓器は機能が調整されています。
それぞれの神経の機能として、交感神経は、車で例えるとアクセル(活動を促す神経)。
副交感神経はブレーキ(活動を抑える神経)といったイメージです。
交感神経は心臓に作用して、心拍数や心臓から拍出される血液量を調整します。
血管に対しては血管の裏打ちをしている筋肉(血管平滑筋)に作用して、血管の収縮に作用します。
ちなみに、血圧とは、心拍出量(心臓から出ていく血液量)と抹消血管抵抗(血管の硬さ、収縮の程度)によって規定されています。
つまり、自律神経が血圧を調節してくれる因子ということになります。
もともと人間は、自分が存在する周囲の環境に適応するために自律神経を発達させてきました。
例えば…
原始人はジャングルの密林の中で野獣と遭遇した際に、逃走したり、戦ったりといった急激なアクションを起こすために交感神経が発達しました。
その高ぶった交感神経の機能を抑制し、リラックスするために副交感神経が発達してきました。
現在、私たちが生活している環境で自律神経はどう作用しているでしょうか?
毎日満員電車に揺られ出勤し、職場では厳しいノルマを求められ、頑張ったからといって年功序列で昇給が約束されるといった訳でもありません。
未来が見えにくく、先行きが不安定な生活を強いられがちです。
こういった慢性的な不安は、持続的に交感神経を刺激します。
人間の自律神経はこういった慢性的な刺激には慣れていません。
原始人は狩で獲物を捕らえることができたら大成功!・獲れなかったら大失敗!
といった成功と失敗がはっきりした生活を送ってきており、それが遺伝子に組み込まれ、今の人間の神経機能となっています。
それ故に、現代人における慢性的なストレス刺激は交感神経を疲労させ、オーバーヒートを引き起こし自律神経の機能が破綻してしまうのです。
起立性調節障害でみられる身体症状として、以下があげられます。
1.立ちくらみ、あるいはめまいを起こしやすい
2.立っていると気持ちが悪くなる。ひどくなると倒れる
3.入浴時あるいは嫌なことを見聞きすると気持ちが悪くなる
4.少し動くと動悸あるいは息切れがする
5.朝なかなか起きられず午前中調子が悪い
6.顔色が青白い
7.食欲不振
8.へその周囲の痛みをときどき訴える
9.倦怠あるいは疲れやすい
10.頭痛
11.乗り物に酔いやすい
これらの項目のうち3つ以上当てはまる、あるいは2つであっても症状が強いなどの場合、起立性調節障害である事を疑いましょう。
また、起立性調節障害には大きく4つのタイプに分けられます。
タイプの分け方とその種類は下記の通りです。
ほかの病気ではないことを確認した後、新起立試験(10分間安静の状態で横になった後に起立し、心拍数や血圧の変化を測定)を行ない、以下の4つのどのタイプに当てはまるかを判定します。
1.起立直後性低血圧
起立直後に血圧低下が起こり、回復に時間がかかるタイプ
2.体位性頻脈症候群
起立後の血圧低下はなく、心拍数が異常に増加するタイプ
3.血管迷走神経性失神
起立中に急激な血圧低下が起こり、失神するタイプ
4.遷延性起立性低血圧
起立中に徐々に血圧低下が進み、失神するタイプ
規則正しい生活を心掛け、循環血液量を増やすため、十分な水分と塩分を摂取します。心臓へ戻る血液量を増加させるために、運動により下半身の筋肉量を増加させ、筋肉ポンプの働きを高めることも有効だと思われます。
薬物療法として昇圧剤の内服が行なわれますが、漢方薬が著しく効果的である場合もあります。
冒頭でもお伝えしましたが起立性調節障害にかかりやすいのは、10〜16歳。
患者比率は、小学生の約5%、中学生の約10%とされ、男:女 = 1 :
1.5〜2とやや女児に多い傾向にあります 。
子どもで起立性調整障害が多い原因に定説はありません。
自律神経機能が発達段階の子どもは、交感神経、副交感神経のアンバランスが生じやすいためと想定されています。
さらに、心身的なストレスが加わることで、大人と同様の機序が、未熟な自律神経機能では引き起こりやすく発症するとも言われています。
子どもの起立性調節障害の特徴
①学校を休むと症状が軽減する。
②身体症状が再発・再熱を繰り返す。
③気にかかっていることを言われたりすると症状が増悪する。
④1日のうちでも身体症状の程度が変化する。
⑤身体的訴えが2つ以上にわたる。
⑥日によって身体症状が次から次へと変化する。
小児の起立性調節障害の特徴は上記のようにいわれてます。
①の学校を休むと症状が軽減するというのが特徴的です。
特に「遊びには行けるけど、学校にはいけない」と表現されることがあります。
これだけ聞くと、「サボり」や「甘え」という印象を受けてしまいますが、そうではないのです。
子どもは先述のように、交感神経と副交感神経のバランスが発達段階であり、まだうまくとれません。
起床時は交感神経と副交感神経が切り替わる時間帯で、これがうまく切り替わることで元気に起床し、登校できます。
しかし、このスイッチがうまくいかないと起立性調節障害の症状として、朝に様々な不調を起こします。
それ故に登校できなくなってしまうのです。
一方で、遊びに行くのは、たいてい起床後時間が経過してからであり、その時間には自律神経は正常に機能しだしますので、楽しく遊べます。
起立性調節障害は環境因子など多くの原因が複雑に絡み合っていることが多いです。
これを治すためには、一つのアプローチでは不十分で、様々な視点を持つことが大切になります。
日常生活の改善、食事療法、運動療法、薬物療法などを包括的に行います。
まずは自分の生活を見直してみよう
□生活リズムが乱れている
□ 適切な時間(6〜 7時間)の睡眠がとれていない
□昼寝をしすぎている
□スマホやPCなどを夜遅くまで見ている
□働きすぎていることに自覚がない
□運動不足
□バランスの悪い食事 遅い時間の食事
などといった事項に思い当たる場合は、交感神経への負担が強い可能性があり、注意が必要です。
そのため、改善できることから改善すべきです。
運動は適度に行うことで、交感神経と副交感神経のアンバランスをリセットしてくれる効果があります。
食事習慣も大切です。
菓子パンやお菓子など急激に血糖値を上昇させる食物ばかり食べていると、血糖値を下げるホルモンが急激に分泌されます。
こういったホルモン分泌は自律神経が関与しています。
急激なホルモンバランスを乱す食事は、自律神経にも強く影響し、自律神経のアンバランスを引きおこします。
また、遅い時間の油物などの食事摂取は、胃腸への負担や逆流性食道炎のリスク因子となります。
これらの臓器にも自律神経が張り巡らされているために、自律神経障害の因子となります。
周囲の環境を見直してみよう
□学校や職場環境において、仕事内容、人間関係で負担を感じている
□家庭環境でも負担を感じる要因がある
□将来への不安がある(育児、進路、金銭、家庭など)
などといった事項に思い当たる場合も、自己の生活習慣と同様に潜在的なストレスの原因であり注意が必要です。
しかし、すべて自分で解決しようとせず、思い切って友人や児童自立支援施設、精神保健福祉センターなどの専門窓口(臨床心理士が在籍する)に相談するという判断も大切です。
また、将来への不安など漠然としたものに関しては、「見えないものを見える化」するという作業が大切です。
漠然とした不安が少しでも明確になることで、負担が軽減されます。
自己の生活習慣を見直すという観点からは、簡単にできる毎日の日記などもおすすめです。
起立性調節障害は小中学校くらいから発症し、大人になるにつれて自然に軽快し改善してしまうお子さんも多いです。
これは心身ともに成長したことで、自律神経のバランスがうまくとれるようになってきたことと考えていいでしょう。
しかし、小児期に起立性調節障害と診断されたお子さんの40%前後が、大人になって起立性調節障害を再発したという調査結果もあります。
起立性調節障害は、交感神経を慢性的に疲れさせる近代の新しい生活様式が生み出した病気と言ってもよいかと思います。
それ故に、私たちはこの病気をいつ発症してもおかしくありません。
まずは、このような病気があるということを認知し、生活習慣の改善を行うことで、少しでも快方に向かう可能性があります。
また、この病気はお子さんの有病率が高く、遊べるのに学校へ行けないなど、一見「甘え」「サボり」と思われがちです。
実際にはそうではありません。
発達段階の子供の兆候である可能性もあるということを学校や職場などに理解してもらうといった、社会的な対応も必要と思われます。
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