- よもやま話
今回は、「痛風」と「尿酸」についてご紹介します。
痛風とは、足の親指の付け根の関節が腫れ、痛みに襲われる疾患です。ひと昔前まで、痛風患者の多くは男性で、女性は更年期前までエストロゲンなど女性ホルモンが尿酸の発生を抑えて体外へ排泄する働きがあるため、痛風にはなりにくいと考えられていました。時代の変化に伴い、近年は女性の痛風患者も増えているとのことです。厚生労働省が2019年に調査した日本における痛風患者数はおよそ125万人。その原因は、食生活の多様化、偏食により肥満体質の増加、アルコールの摂取量、運動不足、ストレスなどが挙げられます。尿酸値の上昇によって引き起こすさまざまな疾患、尿酸値を下げる方法などをお伝えします。ぜひ、ご一読ください。
痛風は、体内に尿酸が溜まり、それが結晶となって足の親指の付け根の関節が腫れ、激痛に襲われる疾患です。健康な方であれば、尿酸の産出量と体外に排泄される量のバランスが取れるため、血液中の尿酸は、一定の範囲に保たれています。しかし、尿酸の産生が過剰に増えたり、排泄量が下がることで、血液中の尿酸値が高くなってしまいます。その結果、尿酸は血液に溶けきれず結晶となり、体内の至るところにくっ付いてしまいます。尿酸の結晶は異物のため、人間の身体は体内から異物を取り除こうとして身体が炎症を起こし、赤く腫れ、強い痛みが生じるようになります。風があたり、わずかな感触でも痛みが出ることから「痛風」と名付けられています。健康診断を受けている方は尿酸値も意識してください。尿酸値の高い方は、痛風になりやすいので注意しましょう。
尿酸とは、プリン体という物質から生まれます。プリン体は、細胞の核に存在する核酸の構成成分です。人間の身体は、たくさんの細胞が集まってできており、元気に生きるために細胞は新陳代謝(古い細胞が死んで、新しい細胞が生まれること)を繰り返しています。細胞が死ぬときに核酸も分解され、プリン体が生まれます。プリン体は体内で代謝され、増殖などを助ける重要な役割を果たしています。一方で、体内で利用しきれなかったプリン体は肝臓で分解され、尿酸という老廃物となり、汗や便、尿の中に混じって体外に排泄されます。プリン体のうち約8割は、体内で生成されますが、残りの2割は食べ物や飲み物から摂取されます。人間の身体と同様に穀物、肉や魚などもたくさんの細胞で構成されているので、それらを摂取することで体内にプリン体が溜まります。尿酸は一定量までは血液に溶けますが、それ以上になると溶けません。その結果、尿酸値が高くなります。尿酸値が7.0/dL以上になると「高尿酸血症」と診断されます。
高尿酸血症の主な原因は、尿酸の産生過剰と腎臓からの排泄低下の2つです。尿酸値が高い状態が続くことで腎臓への負担が大きくなり、腎臓機能が低下します。
①尿酸の産生過剰
先ほども触れましたが、尿酸の産生過剰は、プリン体を多く含む食品の過剰な摂取です。後述でも触れますが、プリン体が多く含まれる食品は、豚のばら肉、牛の脂身、鶏の皮など脂肪分が多い部位と内臓肉(レバーなど)、青魚類ではアジ、サバ、イワシ、その他、煮干しや干しシイタケなどの乾物にも多く含まれています。
②尿酸は腎臓から尿中に排泄されるため、腎臓機能が低下すると血清尿酸値は高くなります。また利尿薬などを内服すると尿酸の排泄が低下し、尿酸値が上がりやすくなります。
痛風や尿酸が結晶化することで発症する「尿路結石」は痛みの症状がありますが、高尿酸血症には自覚症状がありません。痛風を発症させない程度の軽度の尿酸値であっても、慢性腎臓病や心血管疾患などの病気を引き起こす関連性があるとの医療研究結果も報告されています。また高尿酸血症の方は、「高血圧症」、「脂質異常症」、「糖尿病」、「メタボリック症候群」など多くの生活習慣病も患っていることが多いことも知られています。自覚症状がない場合でも定期的に健康診断を受け、尿酸値の確認や医療機関で相談してみましょう。
1. 体重を減らす
肥満は、プリン体を合成しやすく、尿酸の排泄機能が低下しやすくなります。尿酸値が高く、肥満気味の方は、脂肪や糖分を摂りすぎていないか注意しましょう。BMI(体重kg÷身長m÷身長m)が25以上の場合は、食事量が多いことが考えられます。食べ過ぎをなくすことで尿酸値だけでなく、血圧や中性脂肪、コレステロール、血糖値の低下にも繋がります。なるべく油で揚げた料理や頻繁な肉料理は控えるように心がけましょう。
2. 栄養バランスの良い食事を摂る
体内のプリン体の中で約2割は食べ物や飲み物から摂取されます。尿酸値を下げるためには、主食、主菜、副菜などバランスの良い食事バランスが大切です。尿酸値が高まることで尿が酸性に傾きやすくなり、尿酸が排泄されにくくなるからです。特に動物の内臓や肉、魚の干物、魚卵にはプリン体が多く含まれています。また、キャベツやジャガイモなどの野菜、果物に含まれるビタミンCは尿酸排泄を促す働きがあります。尿酸は、酸性の尿に溶けにくく、中性やアルカリ性の尿に溶けやすい性質があります。尿をアルカリ化する海藻、きのこ類なども摂ることをおすすめします。これらの食品は食物繊維やカリウムを豊富に含んでいるので生活習慣病予防にも効果的です。
3. アルコール摂取量に気をつける
アルコールが体内で分解される時に尿酸が作られるほか、肝臓からの尿酸排泄を抑える働きがあるため、ビールに限らずアルコール類を控えることも大切です。1日のお酒の適量目安は、ビールの場合、500ml、日本酒であれば1合程度、ワインであれば200ml以内といわれています。よく「低プリン体」や「プリン体ゼロ」などと表示されたアルコールを見かけますが、アルコールには尿酸値を上げる働きがあることも知っておきましょう。
4. 水やお茶などの水分補給をこまめに行う
利尿作用のあるお水やお茶をこまめに摂るようにしましょう。1日の摂取目安は2ℓです。高尿酸値症ガイドラインによると1日2ℓから2.5ℓ程度の水分補給により、尿量として1日、約2ℓ程度とされています。健康な方の尿量は1日あたり1から1.5ℓといわれています。無理がないように1回200ml(グラス1杯程度)を摂ることで尿酸の排泄が促進されやすくなります。特に汗をかき、水分補給をしないと血液や尿が濃くなり、尿酸値が上がる原因にもなります。とはいえ、運動後にジュースやスポーツドリンクは果糖が多く含まれており、体内で分解される時に尿酸値を上げる作用があります。体内のエネルギー代謝が活発になり、プリン体が増量してしまいます。
5. 適度な運動をする
ウォーキング、ジョギング、水泳など長時間継続して行う有酸素運動がおすすめです。1日20分程度続けることで糖質と一緒に体脂肪が消費されるようになり、減量だけでなく、高血圧、脂質異常などの改善にも繋がります。筋肉トレーニングなど短時間で激しい動きを行う無酸素運動は、新陳代謝を活発化し、尿酸の生成を促します。また、疲労物質である乳酸も増えるため、尿酸の排泄が抑えられます。その結果、尿酸値を高めてしまいます。
6. ストレスを溜め込まない
ストレスや脳を使う仕事のし過ぎは、尿酸値に影響を及ぼす場合があります。趣味に没頭する、入浴、睡眠などリラックスできる時間を作りましょう。
痛風、高尿酸値症は、偏った食生活、運動不足やストレスなど生活習慣や生活環境と深く関わっています。また、年齢や性別に関係なく、誰にでも起こりうります。予防するには、毎日の食養生、アルコール類の摂取量、気軽にできる有酸素運動が効果的です。今のあなたは、過去のあなたの結果なのです。日々の食養生、生活習慣を見直すことで尿酸値の改善ができる他、生活習慣病の予防にも繋がります。無理をせず、気軽にできることから取り組んでみてはいかがでしょうか。