- よもやま話
新型コロナウイルスの感染拡大によって私たちの生活が変わり始めてから3年以上の月日が経過しました。この間、外出を自粛し、人との交流が希薄になり、自宅で過ごす時間が多かったと思います。特に高齢者は、そのような環境において認知機能の低下、免疫力の低下などに伴って、さまざまな病気を引き起こしてしまいます。人は人と繋がることで元気になります。また、笑うことは健康にも良いということも科学的に証明されています。身体を内面から整えることが大切なのです。今回は、「笑い」や「幸せホルモン」が健康に与える効果についてお伝えします。
健康な人の身体でも毎日4,000~5,000個のがん細胞が生まれています。これらのがん細胞や体内に侵入するウイルスなど身体に悪影響を及ぼす物質を退治しているのが、リンパ球の一種であるナチュラルキラー(NK)細胞です。さまざまな説がありますが、人間の体内にはNK細胞が50億個もあり、その働きが活発だとがんや感染症にかかりにくくなると言われています。私たちが笑うと、免疫のコントロール機能をつかさどっている間脳に興奮が伝わり、情報伝達物質の神経ペプチドが活発に生産されます。笑いが発端となって作られた善玉の神経ペプチドは、血液やリンパ液を通じて体中に流れ出し、NK細胞の表面に付着し、NK細胞を活性化します。その結果、がん細胞やウイルスなどの病気のもとを攻撃するので、免疫力が高まる仕組みになっているのです。
1. 脳の働きが活性化する
脳の海馬は、神経細胞の結合をつくる役割を果たしていると言われ、短期記憶から長期記憶へと情報をつなげる中期記憶を担う器官です。笑うことで活性化され、記憶力がアップします。また、笑いによって脳波の中でアルファ波が増えて脳がリラックスする他、意思や理性をつかさどる大脳新皮質に流れる血流量が増加するため、脳の働きが活発になります。
2. 自律神経のバランスが整う
自律神経には、身体の緊張を優位にする交感神経とリラックスを優位にする副交感神経があります。両方のバランスが崩れると自律神経失調症など体調不良を招きます。通常、起きている時間は、交感神経が優位になっていますが、笑うと交感神経が促進し、その後急激に低下することで、リラックス効果をもたらすので、交感神経とのスイッチが頻繁に切り替わることで自律神経が整います。
3. 血行促進
思い切り笑った時の呼吸は、深呼吸や腹式呼吸と同じような状態です。体内には酸素がたくさん取り込まれるため、血の巡りが良くなり新陳代謝も活発になります。
4. 筋力がアップする
笑っているときは心拍数や血圧が上がり、呼吸が活発になり酸素の消費量も増えます。静かに過ごすより、笑っている方がカロリー消費量が多くなります。また、大笑いするとお腹が痛くなるように、腹筋、横隔膜、顔の表情筋などをよく動かすので、筋肉が鍛えられるのです。さらに、筋トレは、慢性炎症の予防、NK細胞を活性化させる他、がん細胞を繁殖させる高血糖症も下げることが知られています。
皆さんの周りには「よく笑う人」と「あまり笑わない人」がいると思います。笑わない人にどうして笑わないのかと詰め寄っても仕方ありません。代わりに笑う頻度と死亡率の相関関係を8年間観察した研究データによるとほとんど笑わない人の死亡率がたまに笑う、よく笑う人よりも2倍以上高くなることが分かりました。この傾向は、生存率と生きがいの相関関係に似ていて、生きがいのない人(≒笑わない人)は生きがいのある人(≒よく笑う人)に比べて生存率が大きく下がります。また、笑いは認知症予防の役割も担っており、ほとんど笑わない人は、毎日笑う人よりも認知機能の低下が2倍以上になるといわれています。認知症は、いきなり発症するのではありません。一定の潜伏期間があるので、そこでその人の生活に笑いがあれば、認知症が制御できるのです。
笑いの持つ力には、①笑う力、②笑われる力、③笑わせる力があります。①の笑う力は、がんや認知症の予防の他、人を前向きな気持ちにさせて、目標に向けて一歩踏み込み出すように促してくれます。②笑われる力は、人はえてして笑われたくないと思いがちです。「こんな事を言ったら馬鹿だと思われる」とか「恥ずかしくてできない」とか身構えてしまいます。特に立場の偉い地位にある高齢男性に笑われる力が欠如している人が多く見受けられます。人と違うことを言う、することに対する抵抗感があるかもしれません。だからこそ、笑われる方がいい。それによって自分が他者からどう見られているかを知ること(メタ認知)ができるのです。笑われる力のある人は人を笑わせることができます。自分が笑われることで、何が面白いかが分かるからです。そこで「笑わせる」を「人を喜ばせる」に置き換えて考えてみてください。この人に「こんな事をしたら愉快な気持ちになるかもしれない」ぜひ、試してみてください。そのためには相手の人なりを知ることが必要です。笑わせる力の基本は「人を知ること」です。
生きがいの「ある」人の方が生きがいの「ない」人よりも生存率が高いことを前述で触れましたが、生きがいと不可分である幸福感を生み出すのは「セロトニン」、「オキシトシン」、「ドーパミン」という3つの脳内物質です。
セロトニンとは?
心と身体の健康、気持ちの安らぎによってもたらされます。例えば、川のせせらぎの音、小鳥のさえずり、お花の匂いが漂う場所などで心地よくなる感覚の時にセロトニンが分泌されています。
オキシトシンとは?
誰かと一緒にいて楽しい、嬉しい、安らぐなど人との繋がりや愛情によって生まれます。オキシトシンが分泌されると、ストレスで過剰に反応していた脳の疲れを癒したり、気分を安定させるなどの作用があります。オキシトシンが十分に分泌されているとセロトニンの分泌も増えて、相互作用によりストレス緩和に繋がってきます。
ドーパミンとは?
学業で成績が上がった、スポーツ大会で優勝した、仕事で昇進や昇給した、新規の契約が取れたなどある目標を達成した時や人から褒められた時などに分泌されます。目標達成などプラスに働くことは良いことですが、快楽を求めてアルコール依存やギャンブル中毒などマイナスに働くこともあるので注意しましょう。
セロトニンの分泌を上げるには、タンパク質を摂る、太陽の光を浴びる、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動が効果的です。肉や魚、大豆製品などタンパク質を摂ることで、アミノ酸のトリプトファンが摂取できます。太陽の光は脳の視交叉上核に刺激が伝わることで、セロトニンの分泌が促されます。ウォーキングやジョギングは開始5分でセロトニンの分泌が活性化され、20~30分でピークを迎えます。このようにセロトニンは、心と身体の健康が基本です。不規則でバランスの悪い食生活や夜更かしなど生活習慣が乱れるとセロトニンが不足し、イライラしたり落ち着きがなくなったり、攻撃的になったりします。進行するとうつ病を発症することもあります。
オキシトシンは、人やペットとのスキンシップ、身体マッサージ、コミュニケーションを図り、楽しむことで分泌されます。
ドーパミンは、セロトニンやオキシトシンの分泌が土台となってドーパミンの幸福感が得られます。不規則な生活で無理に勉強や仕事を頑張ろうとすると体調を壊します。そのため、セロトニン➡オキシトシン➡ドーパミンの順が望ましいとされています。
「笑うこと」や「幸せホルモン」を分泌させることで身体の内面から健康が築けます。健康な毎日を過ごすためには、バランスの良い食事、適度な運動、良質な睡眠が大切です。皆さんも身近なところからはじめて生きがいのある毎日にしていきましょう。