- よもやま話
「最近、物忘れが激しいの」「私の親が、ご飯食べた後にまたご飯を欲しがるの」
周りでこんな声を耳にした時に、おそらくあなたは「認知症」が浮かぶと思います。テレビでもたくさん取り上げられているものの、具体的な治療法がまだ確立されていない症候群。今回は認知症の中でも一番多いと言われている「アルツハイマー型認知症」について触れていきます。
認知症とは、いろいろな事が原因で脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったりしたために様々な障害が起こり、生活するうえで支障が出ている状態のことを指します。認知症は病名ではなくまだ病名が決まっていない“症候群”のことなのです。
認知症は医学的に『正常な発達を遂げた知能がその後に起きた脳障害のために異常に低下し、日常生活や社会生活に支障をきたした状態』と定義されます。後半の『日常生活や社会生活に支障をきたした状態』と言うところが重要です。
加齢に伴う物忘れでは出来事の全てを忘れるわけでなく、食べたこと自体は覚えているものの、そのメニューが思い出せないという症状です。ヒントがあれば思い出すことやある程度の見当はついている状態ですので、生活に大きな支障をきたすことはあまりありません。
一方で認知症の物忘れは出来事の全てを忘れてしまうので、日常生活に大きな支障をきたします。よって実際は食事をしているのに食べていないと言い張ったり、何度も食事を要求してきたりするのです。
このように認知症は物忘れの自覚がなく、体験したこと自体を忘れてしまうのです。
認知症にはいくつかの種類があり、その中でも最も多いのがアルツハイマー型認知症です。
アルツハイマー型認知症とは、脳の神経細胞が減少し、脳が小さく萎縮することで症状が現れる認知症です。新しいことが記憶できない、時間や場所がわからなくなるといった特徴があります。
40歳頃から水面下で発症し、徐々に症状が現れます。そして恐ろしいことに、完治が難しいといわれています。
また、アルツハイマー型認知症は65歳以上の人では最も多い認知症です。
発症の仕組みとしては、「アミロイドβ(ベータ)」と呼ばれる異常たんぱく質の蓄積と「神経原線維変化(過剰にリン酸化されたタウ蛋白の蓄積)」という脳の中での2つの変化を特徴とします。
病気が進行するにつれて、物忘れなど様々な症状が現れますが、進行は比較的ゆるやかです。
早期にみられる徴候および症状:記憶障害は多くの例でアルツハイマー型認知症の最初の徴候のひとつです。ときには他の思考に関する問題、例えば適切な言葉が出てこなかったり、判断力が低下したりといったことが早期に目立って現れます。
軽度のアルツハイマー型認知症:アルツハイマー型認知症が進行するにつれて、記憶障害は悪化し、他の認知能力の変化ははっきりとしてきます。
・質問を繰り返す
・迷子になる
・普通の日常作業をするのに時間がかかるようになる
・判断力の低下
・お金の取り扱いや領収書の支払いに問題が生じる
・物をなくしたり、おかしな場所に置き忘れたりする
・感情および人格の変化
<多くの場合、この段階でアルツハイマー型認知症と診断される>
中等度アルツハイマー型認知症:この段階では、言語や論理思考、感覚処理および意識的な思考を制御する脳の領域に障害が起こります。
・記憶障害や錯乱が悪化する
・家族や友人を認識しにくくなる
・新しいことを覚えられない
・複数の手順による作業(着替え等)が困難になる
・新しい状況へ対応しにくくなる
・幻覚、妄想およびパラノイア
・衝動的行動
高度アルツハイマー型認知症:高度のアルツハイマー型認知症の人はコミュニケーションをとることができなくなり、自身の世話を他人に完全に依存するようになります。最終的には、身体機能の低下に伴い、ほとんどをベッドの上で過ごすか寝たきりになる場合があります。
・コミュニケーション能力の喪失
・体重減少
・痙攣発作
・嚥下障害
・皮膚感染症
・うめき声をあげる
・睡眠時間の増加
・排便、排尿障害
昨今では医療の発展により、食事や運動などの生活習慣や性格などが認知症の発症に大きな影響を及ぼすことが分かってきました。
食事では、炭水化物を主とする高カロリーな食事や低たんぱく質食および低脂肪食は、認知症リスクを高める傾向にあります。
また、ソーセージや塩漬け肉などの高度加工肉と、じゃがいもなどのでんぷん質の食品、アルコール、スナック菓子(ケーキやクッキーなど)の組み合わせのようなジャンクフードを食べた人々は、健康的な食品を食べた人々よりも、認知症を発症する可能性が高いことが分かっています。
大量の飲酒も認知症のリスクを高めます。
アルコール代謝でビタミンB1の消費が増え、ビタミンB1欠乏症によって記憶力やその他の認知機能が低下しているものという意見があります。
運動不足も筋力の低下に繋がり「フレイル(虚弱)」をもたらし、フレイルな高齢者は認知機能が低下しやすく認知症になりやすいと言われています。
長期の喫煙も認知症の危険因子であると言われます。
性格的には、一般的に『怒りやすい・短気な人』『小さい事を気にしすぎてしまう人』『協調性のない人』は認知症リスクが高いといわれています。
怒りやすく、短気な人は些細なことでも怒鳴ってしまったり、自分が納得できないことがあったりして、人に当たってしまうなど、周囲の人たちとうまく関係を気づけない人に関しては徐々に社会的にも孤立してしまう可能性もあるでしょう。
人とのコミュニケーションや関わりが減ってしまい、脳の老化が進み認知症に繋がってしまう原因になると言われています。
小さいことを気にしすぎてしまう人は、周囲のことが気になり敏感で傷つきやすくストレスを受けやすい性格の方もいます。ネガティブな思考にとらわれ、小さなストレスが蓄積されていくと鬱傾向に陥り認知症リスクに繋がります。
また、協調性のない人も、コミュニケーションの場が減ってしまい他者との関りや会話が少なくなってしまうと認知症の発症リスクを高めてしまいます。
まずは睡眠です。アミロイドβは脳が活動したときに発生し、ノンレム睡眠状態で体内から排出されるといわれています。
つまり、睡眠不足やノンレム状態が確保できないと、排出出来ないアミロイドβが脳内に蓄積され、アルツハイマー型認知症のリスクが高まります。最近は、ショートスリーパー気味の方や遅くまでゲームをして夜更かしをするといった若い方が増えていますが、アルツハイマー型認知症へ自ら進んでいるといっても過言ではありません。しっかり質の良い睡眠を確保していきましょう。
また最近の研究で、アミロイドβやタウ蛋白をたまりにくくする方法がわかってきています。
運動は効果が高い予防法です。特にウォーキングなどの有酸素運動は、脳の血流を良くする効果があります。運動は内臓脂肪を燃やし、血糖値や中性脂肪値を下げ、血圧を下げる効果もあり、いわゆる善玉のHDLコレステロールを高める働きもあります。1日30分の運動を週3回以上行うのが目安で、楽しみながら行うと脳が活性化するため、認知症予防の効果がさらに上がることが期待できます。
記憶力の回復のためには、体と脳に同時に負担をかけると効果的です。
例えば、歩きながら計算をする、踏み台を昇降しながらしりとりを行うといった運動プログラムをすると、記憶力や判断力が向上し認知症予防の期待ができます。
糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満、メタボリックシンドロームを予防・改善するための食事は、認知症を予防するにも効果的です。
具体的には、コレステロールを減少させるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)を多く含む魚、特にサバ・イワシ・サンマなどの青魚を摂取すると、アルツハイマー型認知症の発症リスクが低下するという報告があります。
また、大豆製品にはコレステロールや中性脂肪を低下させる働きのある栄養素が含まれ、納豆に含まれるナットウキナーゼには、血栓の主成分フィブリンを溶かす働きがあります。
緑黄色野菜に含まれるビタミンやポリフェノールなどの抗酸化作用のある栄養素には、活性酸素によってうける神経細胞のダメージを減らす作用があります。
野菜・ベリー類・海藻類・ナッツ類が有効とされています。
これらの栄養素は日本食に多く含まれるので、日本食が認知症予防に効果的とする研究も報告されています。
人とのコミュニケーションにも予防の効果があり、普段から人と関わっている人は認知症になりにくいことがわかっています。
大勢の人と一緒に活動し、楽しくコミュニケーションをとることは脳へ刺激を与えて脳の神経細胞を活性化させます。社会の中で役割を持つことが認知症予防に繋がります。人の集まる場所に出かけ、積極的にコミュニケーションをとるようにすることは認知症予防に効果的です。
このように一度アルツハイマー型認知症になってしまうと完治が難しいので、早めの予防・対策が重要になってきます。
2025年には高齢者の5人に1人は認知症になると言われています。
幸せな人生を送るためにも自身の生活習慣を見直し、健康的な食生活や適度な運動を心掛けて認知症リスクを下げる意識を持ちましょう。