- よもやま話
「体のあちこちが痛い」「痛みが何カ月も続いている」「検査をしても大きな異常が見つからないのに、つらい……」。
このような悩みを抱えている方の中には、「線維筋痛症(せんいきんつうしょう)」という病気が関係している場合があります。
線維筋痛症は、全身に広がる慢性的な痛みを主な症状とする病気です。痛みだけでなく、強い疲労感、睡眠障害、頭痛、しびれ、集中力の低下など、さまざまな症状を伴うことがあります。症状の程度には個人差が大きく、日常生活や仕事に大きな影響を及ぼすこともあります。
今回は、線維筋痛症について解説していきます。
線維筋痛症は、全身の広い範囲に痛みが続く慢性疼痛疾患です。
特徴的なのは、筋肉や関節などに「痛み」を感じるにもかかわらず、一般的な検査では、その痛みを説明できる明らかな炎症や組織の損傷が見つからないことがある点です。
「検査で異常がないなら、気のせいなのでは?」と思われてしまうことがありますが、これは大きな誤解です。
線維筋痛症では、痛みを感じる仕組みそのものに変化が生じていると考えられています。特に、脳や神経系における痛みの処理が過敏になり、通常ならそれほど強く感じない刺激でも「痛い」と感じやすくなる状態が関係すると考えられています。
また、症状は痛みだけではありません。
「朝起きても疲れが取れない」「眠りが浅い」「頭がぼんやりする」「集中できない」「頭痛がする」「手足がしびれる」「音や光などの刺激がつらい」といった症状を伴うことがあります。
つまり、線維筋痛症は単純に「筋肉が痛くなる病気」と考えるのではなく、痛みを中心として、睡眠や疲労、認知機能などにも影響する全身的な疾患として捉えることが大切です。
線維筋痛症の原因は、現在のところ完全には解明されていません。
「これが原因」という一つの原因で発症するのではなく、さまざまな要因が重なって発症するのではないかと考えられています。
その一つとして注目されているのが、先ほども触れた「痛みの感じ方」の変化です。
通常、私たちの体には、痛みを感じたときにその情報を調整する仕組みがあります。しかし線維筋痛症では、この痛みを調節する仕組みがうまく働かなくなり、痛みを強く感じやすい状態になっている可能性があります。
また、発症のきっかけとして、身体的な外傷や病気、手術などの身体的ストレスだけでなく、精神的なストレスや環境の変化などが関係することもあります。厚生労働省のeJIMでも、傷害や精神的な苦痛などが関連する可能性が示されています。
ただし、「ストレスが原因だから心の病気」という単純な話ではありません。
身体的な要因と心理・社会的な要因が複雑に絡み合い、痛みを感じる神経系の働きに影響を与えていると考えたほうが理解しやすいでしょう。
さらに、「痛いから眠れない」「眠れないから疲れる」「疲れることで痛みに敏感になる」というように、痛み・睡眠・疲労が互いに影響し合う悪循環が生じることもあります。
そのため、線維筋痛症を考える際には、痛みだけを見るのではなく、睡眠、疲労、ストレス、生活リズムなどを含めて全体を見ることが重要になります。
線維筋痛症は、子どもから高齢者まで発症する可能性がありますが、特に中年期に診断される人が多く、女性に多いことが知られています。厚生労働省eJIMでは、女性は男性より発症しやすいとされています。
ただし、「女性だからなる」「この性格の人がなる」と単純に決めつけることはできません。
たとえば、
・慢性的な疲労が続いている
・睡眠の質が低下している
・仕事や家庭などで強いストレスを感じている
・身体的な負担が長期間続いている
・過去に大きな病気やけが、手術などを経験している
・痛みと疲労を繰り返している
といった背景を持つ人では、症状が現れることがあります。
また、線維筋痛症では「痛み」と「疲労」「睡眠」の問題が一緒に存在することが少なくありません。
「最近、体中が痛い。でもそれ以上に疲れている」
「寝ているはずなのに、朝から疲れている」
という場合には、単純な筋肉痛や加齢による体の変化だけで判断せず、一度医療機関で相談することも大切です。
線維筋痛症では、「これだけをすれば治る」という単一の治療法ではなく、症状や生活状況に合わせて治療を組み合わせていくことが基本となります。
全身の痛みが長期間続いている場合には、まず医療機関で相談することが大切です。
線維筋痛症には、特定の血液検査や画像検査だけで診断できる検査があるわけではありません。そのため、症状や経過を確認しながら、関節リウマチなど他の病気が隠れていないかを確認したうえで診断が行われます。
治療では、薬物療法だけでなく、運動、睡眠習慣の改善、心理的なアプローチなどを組み合わせることがあります。
特に運動は「痛いのに動いて大丈夫なの?」と思うかもしれませんが、無理のない範囲で少しずつ身体を動かすことが症状の管理に役立つとされています。最初から頑張りすぎるのではなく、散歩など負担の少ない活動から始め、体調を見ながら徐々に増やしていくことがポイントです。
漢方薬局で相談する場合には、「どこが痛いか」だけではなく、身体全体の状態を確認することが重要です。
漢方では、同じ「痛み」という症状でも、その人の体質や体力、冷え、疲労、睡眠、胃腸の状態、ストレスなどによって考え方が変わります。
たとえば、
「冷えを伴って痛みが悪化する」
「疲れると痛みが強くなる」
「眠りが浅く、朝から疲れている」
「精神的な緊張が強く、体もこわばる」
など、痛みと一緒に現れている症状を丁寧に確認します。
漢方薬については、線維筋痛症そのものに対する標準治療として確立しているわけではなく、漢方だけで病気を治すという考え方は適切ではありません。
一方で、漢方医学の考え方を取り入れながら、冷えや疲労、睡眠、胃腸の不調など、個々の体調に合わせたサポートを検討することはできます。
また、生活面では「痛みがあるから何もしない」という状態を避け、できる範囲で身体を動かすこと、睡眠リズムを整えること、無理をしすぎないことなども大切です。
まずはお近くの漢方薬局・薬店・またはクスリ屋さんへ足を運び、相談してみましょう。根本改善へのきっかけの一つになってくれるかもしれません。
線維筋痛症は、全身の痛みを中心に、疲労、睡眠障害、集中力の低下など、さまざまな症状が重なって現れることがあります。
原因はまだ完全には分かっていませんが、「気のせい」「我慢すればよい」というものではありません。
大切なのは、痛みだけを切り離して考えるのではなく、痛み・睡眠・疲労・ストレス・生活習慣を含めて、その人の状態を総合的に見ることです。
病院では、まず他の病気がないかを確認しながら適切な治療につなげること。
漢方薬局では、医療機関での治療を基本としながら、その人の体質や日々の体調に目を向け、生活面も含めたサポートを考えること。
それぞれの役割を理解し、必要に応じて連携していくことが、長く続く痛みと向き合うための一つの方法になるでしょう。